歯科健診とは
歯科健診は、正式には「歯科健康診査」と言います。虫歯や歯周病をはじめとするお口の病気・トラブルを早期発見し、早期治療へとつなげるための健康診査です。
お子様に対する歯科健診は、各自治体において乳幼児を、保育所や幼稚園において園児を、小学校~高校において児童・生徒を対象に実施されており、ほとんど全員がこれを受けています。
一方で大人の場合、基本的に個人が歯科医院に出向いて受診することとなり、その受診率は低くなっています。依然、虫歯や歯周病になってから、それも痛みなどの症状が現れてから、「治療のために受診」する方が少なくありません。
なぜ、歯科健診を定期的に受けた方が良いのか・重要なのか
定期的に歯科健診を受けることが「口腔の健康のために大切」ということは、多くの方がご存じです。
ここでは、なぜ歯科健診が口腔の健康のためになるのか、より具体的にご説明いたします。
一度削った歯は、「元通り」にはなりません
虫歯治療では、基本的に歯を削ることになります。そして、レジン、金属、セラミックなどでその修復を行います。このうちセラミックの詰め物や被せ物は、天然歯に近い審美性・機能性が取り戻せる材料として、近年人気が高まっています。
しかし、たとえセラミックによる治療であっても、天然歯が「元通り」になったわけではありません。歯を削ること、侵された神経を取ることは治療の一環ではありますが、元の健康な天然歯と比べると、その抵抗性は確実に低下しています。
なぜ抵抗性が低下するのか
特に神経を取った歯は、その後血液や栄養が行き渡らなくなります。そのため、脆く、割れやすくなります。さらに、将来的に黒っぽく変色することもあります。
また、詰め物や被せ物で一見きれいに修復できたとしても、天然歯との境目にはどうしても汚れが溜まりやすくなります。当然、二次的な虫歯、あるいは歯周病のリスクが高くなります。
治療を繰り返すことで、最終的には歯を失うことに
たとえ小さな虫歯であっても、何度も同じ歯で再発・再治療を繰り返すと、歯はどんどん小さくなっていきます。詰め物が被せ物となり、神経を取り、そして最終的には歯を失うことになります。
1本でも歯を失うと、部分入れ歯・ブリッジ・インプラントなどによる治療が必要になります。特に保険の適用される部分入れ歯やブリッジは、まわりの歯に負担をかけることになり、場合によっては次々と歯を失うきっかけになってしまうことがあります。
このように、詰め物や被せ物、あるいは入れ歯やブリッジで「きちんと治した」としても、健康なお口と比べると、そこにある歯の寿命は確実に短くなっているのです。
改めて考える定期的な歯科健診の重要性
上記のような事態を避けるためには、「虫歯や歯周病にならないこと」が重要です。当たり前すぎるようにきこえるかもしれませんが、この当たり前のことに向かって努力することが、最終的に多くの歯を残すことを可能にします。
そこで重要になるのが、定期的な歯科健診です。
予防ができる
歯科健診で行われるのは、虫歯・歯周病のチェックだけではありません。歯石や磨き残したプラークを、専用の道具を使って徹底的に除去します。
特に歯石は、セルフケアでは取り除けません。歯石を除去することで、虫歯や歯周病の原因となるプラークが溜まりにくい口腔環境を維持することができます。
早期発見により、小さな治療ができる
虫歯も歯周病も、早期にはほとんど症状がありません。定期的な歯科健診を受けることで、まだ症状に気づいていないうちから、早期に発見し、早期に治療することができます。
虫歯も歯周病も、進行するほど治療が大がかりになります。早期であれば、より簡単な治療が可能になり、歯や歯茎への影響が少なくなります。また、治療期間も短くなります。
自宅でのセルフケアの質が上がる
歯科健診では、歯ブラシ、デンタルフロス、歯間ブラシ、洗口液などのオーラルケアグッズを使った、ご自宅でのセルフケアの指導も行われます。
毎日のセルフケアの質が向上すれば、虫歯や歯周病のリスクは減少します。また、人はどうしても指導された内容を少しずつ忘れてしまいます。定期的に指導を受けることで、いつでも「正しい歯磨き」ができるようになります。
歯科健診のメリット&デメリット
メリット
虫歯や歯周病の早期発見・早期治療ができる
早期発見・早期治療により、歯や歯茎への影響が少なくなります。また、治療期間も短くて済み、医療費の抑制にもつながります。
お口の健康が長く続く
プラークや歯石の除去、ブラッシング指導により、虫歯や歯周病になりにくい口腔環境が維持されます。
身体の健康にも好影響を与える
なんでも食べられること、見た目を気にせず口を開けて笑えること、十分な咀嚼で消化をサポートすることは、身体の健康に直結します。特に歯周病は、誤嚥性肺炎、糖尿病、心臓病、脳梗塞、早産・低体重児出産のリスクを上昇させると言われています。虫歯や歯周病を予防することで、これらの病気を予防できる可能性が高くなります。
また、噛むことによる脳への刺激は、認知症予防に有効です。
生涯での医療費が抑えられる
歯科健診のたびに費用はかかりますが、「歯科健診に通わない場合にかかる医療費」と比べると、長期的にはご負担を抑えられる可能性が高くなります。
なお歯科健診には、原則として健康保険が適用されます。
意識が変わる
定期的に歯科医師や歯科衛生士に口の中を診てもらうことで、「しっかり歯を磨こう!」「前よりきれいになっていると言われたい!」という意欲が湧いてきます。
美容やお洒落と一緒で“人に見られる”ことは、その意識の向上に役立ちます。
デメリット
時間がかかる
唯一のデメリットと言えるのが、歯科健診に通う時間が必要だという点です。
通常、歯科健診にかかる時間は30分から長くて1時間ほどです。また、患者様のお口の状態によって異なりますが、通院のペースは3~6ヵ月に1度程度です。
そんな歯科健診が企業で義務化される!?
現在、企業にはそこで働く一定の条件を満たした人たちに対して、健康診断を受けさせる義務があります。一方で、歯科健診については義務化されていません(ごく一部の職種を除く)。
しかし、その歯科・医科における重要性を鑑み、歯科健診についても、「国民皆歯科健診」として、企業での実施を義務化する動きがあります。
いつから義務化される?
日本政府は、国民皆歯科健診の制度の2025年導入を目指しています。(※2022年6月現在では、未確定です)
具体的な時期については、今後定かになっていくものと思われます。
現在の歯科検診について
義務対象
現在、ごく一部の職種においては、すでに6ヵ月ごとの歯科健診が義務化されています。
「塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、弗ふつ化水素、黄りんを含めた歯またはその支持組織に有害なガス、蒸気または粉じんを発散する場所」で働く人が対象です。
また乳幼児から高校生までのお子様に対しては、各自治体や保育所・幼稚園、学校において歯科健診の実施が義務付けられています。
なぜ、義務化が検討されているのか
ではなぜ、大人に対する歯科健診の義務化が検討されているのでしょうか。それは、日本の歯科における口腔・歯の健康状態が問題視されているためです。
ご存知ですか?日本人のお口・歯の健康状態について
日本は、高い歯科技術がありながら、80歳時点での平均残存歯数が約15本に留まります。(参照:厚生労働省・平成28年歯科疾患実態調査より)
これに対し、予防先進国のスウェーデン・フィンランド・アメリカなどでは約25本という結果が出ています。これら歯科先進国と日本との差の大きな要因となっていると考えられるのが、定期的な歯科健診の受診率です。
世界的に予防の意識が高まる中、日本では依然多くの方が、痛みなどの症状が現れてから歯科医院を受診しています。
先進国の中で目立って低い、定期的な歯科健診の受診率
現在、国内の定期的な歯科健診の受診率は、50%程度に留まります。
一方、世界でもっとも予防歯科の意識が高いと言われているスウェーデンは、この数字が80%以上にものぼります。これはスウェーデンだけが突出しているというわけではなく、他の欧米諸国においても、定期的な歯科健診の受診率は軒並み70%前後が維持されています。
スウェーデンは1970年に定期健診が義務化されており、アメリカでも民間の歯科保険に入っていれば歯科健診は無料です。
こうしたことから、日本でも歯科健診を義務化することで虫歯や歯周病の予防と早期発見・早期治療へとつなげ、長期的には医療費の削減を目指しています。
現在の歯科健診、国民皆歯科健診の費用について
現在、歯科健診は原則として健康保険が適用されます。
3割負担の方で1回あたり2,500~3,000円程度の自己負担額となります。(レントゲン検査が必要な場合、別途1,000~1,500円ほどかかります)
ただ、2022年6月現在、義務化が検討されている歯科健診(国民皆歯科健診)の費用については、公式な発表がありません。今後、その詳細が明らかになっていくものと思われます。
虫歯や歯周病を予防するために自宅と歯科医院でできること
歯科医院でできること
定期的な歯科健診に加えて、以下のような取り組みにより、さらに予防の質を高めることができます。
定期的に予防歯科メニューを受ける
フッ素塗布やPMTCなど、さまざまな予防歯科メニューがあります。歯科医師や歯科衛生士と相談しながら、自分に合ったメニューを受けましょう。
なお、2020年から、より広範囲の予防処置に健康保険が適用されるようになりました。これまで自費となっていた予防メニューにも健康保険が適用されるため、患者様の経済的ご負担も少なくなっています。
虫歯になったときにはセラミックを選択し再発を予防
虫歯になって歯を削ったときには、できる限りセラミックの詰め物・被せ物を選択しましょう。
セラミックは、レジンや金属と比べ、プラークが付着しにくい性質を持っています。また、金属のように溶け出しによる変形がないため、長期にわたって隙間や段差ができず、二次虫歯や歯周病のリスクが抑えられます。
なお当院では、セレックシステムによるセラミック治療を行っています。高品質のセラミックを低価格で提供し、また治療期間も最短1日と、さまざまな面で患者様にメリットをもたらす特別なセラミック治療です。
矯正治療により虫歯・歯周病リスクを削減
歯並びが乱れていると、どうしても汚れが溜まりやすく、同時に磨きづらくなります。虫歯や歯周病リスクを下げるためには、歯並びの改善も有効です。
当院でも、前歯のマウスピース矯正「インビザラインGo」を導入しております。
自宅でできること
丁寧なセルフケア
歯科医院での歯科健診、予防と同じくらい重要なのが、毎日のセルフケアです。歯科医院で受けた指導内容を守り、丁寧に歯を磨きましょう。
歯ブラシだけでなく、デンタルフロス、歯間ブラシ、洗口液などを併用することをおすすめします。自分に合ったオーラルケアグッズの選び方、使い方が分からないときには、受診の際にお尋ねください。
生活習慣の改善
毎食後すぐに歯を磨く、間食を避ける、糖分を摂り過ぎない、やわらかいものばかり食べない、禁煙するといった食生活を中心とした生活習慣の改善も、虫歯や歯周病の予防において大切なことです。
間食を摂る場合には、時間を決めて、ダラダラと食べないようにしましょう。